H&M財団が革新的技術に100万ユーロ 子どもと一緒に成長する服などが受賞

H&Mの創業家一族による非営利財団、H&Mファンデーションが主催する「グローバル・チェンジ・アワードの授賞式が4月3日、スウェーデンのストックホルム市庁舎で開かれた。ここはノーベル賞授賞式の晩餐会が行われる場所。同アワードは“ファッションのノーベル賞”を目指して2015年に始まったイノベーション・コンペで、今回が4回目となる。毎年5つのアイデアを選考し、受賞した5組に100万ユーロ(約1億2400万円)を分配し、H&Mファンデーション、アクセンチュア(ACCENTURE)、スウェーデン王立工科大学(Royal Institute of Technology)が提供する1年間のイノベーション促進プログラムの支援を行うものだ。受賞した5組を紹介する。

ドイツのサーキュラーファッションは、全ての服で循環型デザインを実現させる基盤となるソフトウエアを開発した。賞金の額は最も多い30万ユーロ(約3720万円)。

開発者のイナ・ブッデ(Ina Budde、30歳)代表は「100%循環することを考慮してデザインされた服はほとんどない。“穫る~作る~捨てる”の直線型のモデルから循環型に移行する必要があると感じていて、5年前から取り組んでいた」と話す。仕組みは、循環型を実現するための選択に向けて、リサイクルに必要なデザインやツール、資源といった情報をデザイナーと共有し、素材、裁断、製造など各工程での地球への環境負荷が明示される。それをもとにデザインされた製品の仕様はデジタルID化され、消費者はこの“循環ID”をスキャンすると製品サイトにアクセスでき、着古した後の最適な選択肢が提示される。このシステムを使えば、仕分け工場やリサイクル工場で適切に円滑に処理することができるというものだ。

optimize.webp (1)スイスのディンポラは、風雨を防ぐアウトドアウエア用の鉱物由来の生分解性メンブレン素材を開発した。賞金の額は25万ユーロ(約3100万円)。

「自然を愛する人々のためにデザインされた服が環境に負担を与えるのは皮肉なこと。厳しい気候条件に耐えるための加工に有害物質が用いられ、洗濯すると発がん性物質やマイクロプラスチックが放出されるから」とマリオ・スタッキ(Mario Stucki、29歳)最高経営責任者(CEO)は語る。ディンポラは生分解性でありながら、従来と同等の性能を発揮する代替素材を開発した。無害な鉱物由来でフッ素を含まず、超薄型メンブレン(膜)であることからどのような服にも用いることができる。「今は石灰を用いているが、他の鉱物でも実現可能な技術だ」という。

ケニアのグリーン・ネトル・テキスタイルは、イラクサを用いたテキスタイルを発表した。イラクサを栽培する仕組みづくりから提供して、ケニアの農家の生活水準を向上させる目的もある。賞金の額は15万ユーロ(約1860万円)。

「かんがいも機械の導入も難しい急斜面があったとしたら何を栽培するか?――そこで自然に育つものを育てればいい」と、ジョナ・ムワンギ創業者は話す。少しの日光と最小限の水と土があれば育つ強い植物のイラクサを育てて、その茎から麻のような風合いのテキスタイルを作る仕組みを考えた。処理段階で出る残余物は紙や染料を作るときに用いることができる。ケニア国内だけでも20万軒の自作農家に仕事の機会を与えることができるという。「イラクサはトゲがあるため悪評を受けてきたが、ついに正当な評価を得られるときがやってきた。布はチクチクしないよ」とムワンギ創業者は言う。

イギリスのプチ・プリ(Petit Pli)は、子どもの成長に応じて大きくなる服を提案した。宇宙工学と折り紙から着想したもので、現在特許出願中だという。賞金の額は15万ユーロ(約1860万円)。

「生まれてからの2年間で7サイズも大きくなり、ほとんど着ないで終わる子ども服の量にぞっとしている。丈夫で魅力的で子どもと成長する服があったらと考えた」と、開発に至った経緯をライアン・マリオ・ヤシン(Ryan Mario Yasin、25歳)創業者兼CEOは語る。トップスやボトムスが子どもの成長に合わせて広げられるように織り込まれた服を開発した。素材は防風・防水で、楽しく冒険に満ちた遊びにふさわしい丈夫なものを選んだ。実は、もともと工学を専攻していて、慶應義塾大学への短期留学経験もあるという。「折り紙はその時に知ったんだ。僕が取り組んでいる服の構造が三宅一生さんと似ていると聞いたが、アプローチは異なるよ。もちろん三宅さんのことはとても尊敬している」と話す。

ペルーのレ・クラ(LeQura)は同国のフルーツを用いて、生物を利用した生分解性合成皮革を開発した。手触りや色、硬さや厚さを自在に実現できる技術で、賞金の額は15万ユーロ(約1860万円)。

「レザー生産で奪われる動物の命、なめすために使用する有害な物質や重金属、そして大量に消費される水が問題だった。しかし合成皮革には、本革ならではの特性を満たすものがなかった」と、イセマール・クルーズ・ロエイザ(Isemar Cruz Loayza、28歳)CEOは語る。培養した微生物を利用して作る代替レザーは、どんな革でも再現できるという。また、100%生分解性で、生産工程で出た余り物は、液体肥料としても使うことができ、廃棄物ゼロであるのもポイントだ。「ペルーの花やフルーツから実験をはじめて、現在はパイナップルなどさまざまなフルーツに応用できるようになった。使う材料によって色が変わるので、例えばパイナップルを使えば黄色の合成皮革ができる。また材料を加工することでさまざまな表現が可能になる」と語る。

同アワードは「環境への負荷が少なく地球の天然資源を保護し、ファッションにおける循環を達成すること」を目的としており、4回目の今回は、世界151カ国から6640件の応募があった。昨年は151カ国2600件で、応募数は年々増えている。

また、今年からクラウドファンディングでも資金を募る。同アワードの公式サイトに4日ローンチすると設立者のエリック・バン(Eric Bang)=イノベーションリードは発表した。「これまでの応募者の一番大きな問題点は資金繰りだった。いいアイデアがあっても資金がないと実現できない。今回の5組については独自のキャンペーンを行う。30日間限定で資金を集める」と語った。